サンレイ仕上げのアイスブルーダイヤルが美しいフリーダム60
戸澤2025.06.30
2025.06.27
スタッフブログ
小林時計店の時計技術者兼Web担当の土井です。今回は出張で大分店に行った時のお話。
大分店にあって小倉本店にはない時計ブランド…それは私が愛してやまないIWCです。私は2ヵ月程前に、ずっと欲しかったIWCのパイロットウォッチ「マークXX」を手に入れて以来、仕事中ずっと愛用しているのですが、大分への出張の密かな楽しみがIWCを見る事だったりします。
↑私の愛機、パイロットウォッチ マークXX。特急ソニック車内で撮影した1枚。詳しくは土井のXアカウントを参照。
いつものように店頭に並んでいる時計をチェックしていると、IWCコーナーの壁面に周りとは違うオーラを放つ1本の時計を発見しました。店長が「入ってきたばかりなんだよ」と話すその時計は、2024年に発表されたスペシャルピース「ポルトギーゼ パーペチュアルカレンダー 44」のブラック文字盤モデルです。歴史あるポルトギーゼコレクションの中でも高価かつ希少であり、またIWCが得意とする複雑機構を成熟させた、非常に完成度の高い1本であると感じました。それでは本作を詳しく見ていきましょう。
↑トレーの上で撮影したポルトギーゼ パーペチュアルカレンダー44。”とろみ”のある艶が全体を覆う本作の質感を写真で表現することはなかなか難しかった。
ポルトギーゼはIWCを代表するコレクションであり、長い歴史やシンプルで普遍的なデザインに魅力が詰まっています。その名称には”ポルトガル人”という意味があり、1939年に2人のポルトガル人航海士たちによって製作が依頼された腕時計が発端。船の上で活動するうえで高い視認性が必要だったため、IWCはシンプルで文字盤に懐中時計用の機械を載せた、当時としては異例のサイズであった直径42mmの大きな腕時計を製作したのです。
視認性を高めるため限界まで大きくした文字盤や、丸みを帯びた書体のアラビア数字インデックス、細長いリーフ針といった要素が初代ポルトギーゼから確立され、その意匠は現行モデルにも受け継がれています。基本的なデザイン要素を守りながらも、数十年の歴史の中でクロノグラフやカレンダーなどの新たな機能を追加していき、IWCの中で最も歴史が長く充実したコレクションが形成され、今日に至ります。
↑実際に手に取ると、重厚感が凄い(語彙力)。直径44.4mmのゴールドケースの重みは、なかなか手に取って味わう機会はないだろう。
今回のポルトギーゼ パーペチュアルカレンダー 44は、そんなコレクション中でもひときわ目立った特別な機能を備えています。それは、複雑機構のひとつである「パーペチュアルカレンダー(永久カレンダー)」です。大の月と小の月に加え、4年に1度のうるう年の際にもカレンダーの調整が必要ないという驚くべきメカニズムは、時計の進化の歴史を200年早めた天才時計師、アブラアン-ルイ・ブレゲによって生み出されたと言われています。
そしてこの複雑機構を”扱いやすい”ものにしたのが、かつてIWCの時計技術者陣のリーダーを務めていたクルト・クラウスという人物です。氏の設計思想は、構成するパーツの数をなるべく少なくして堅牢性を高め故障リスクを抑えることと、調整がシンプルで扱いやすい操作性の高さを両立させることでした。
1980年代に発表されたパーペチュアルカレンダー搭載モデル「ダ・ヴィンチ」は、日付・曜日・月・西暦の表示に加え、月の満ち欠けを示すムーンフェイズとクロノグラフを備えていました。しかもそのパーペチュアルカレンダーは、設定のためのボタン類を設けず、リュウズだけで操作できるという、かつてない操作性の高さを実現したのです。
↑左隣に並んでいたのは、ポルトギーゼ パーペチュアルカレンダーの1世代前のモデル。基本的な機能やその配置は共通しているが、最大の違いはムーンフェイズ表示。
ポルトギーゼコレクションに初めてパーペチュアルカレンダーを搭載したのは2003年のこと。リュウズ操作のみで完結するカレンダー機構や西暦表示、ムーンフェイズといったIWCの強みである要素が継承されました。それから複数モデルの開発を経てデザインも機能も少しずつより良いものになっていき、その最新モデルとなるのが2024年に登場した本作です。
最大の進化点は極めて正確なムーンフェイズ表示でしょう。通常のムーンフェイズと形状が違うことにお気づきかと思いますが、これはIWCが特許を取得した、南半球と北半球それぞれから見える月の満ち欠けを現した「ダブルムーン」表示。
特筆すべきはその精度です。これまでのポルトギーゼ パーペチュアルカレンダーのムーンフェイズは、122年に一日の誤差を生んでいました。それでも十分に高精度なのですが、本作では577.5年に一日という誤差まで精度を上げることに成功したのです。
↑文字盤をクローズアップ。表示の説明をすると、12時位置:北半球と南半球それぞれの月の満ち欠けを示すムーンフェイズ、3時位置:内側は7日間のパワーリザーブ表示・外側は日付表示、6時位置:月表示、7-8時位置:西暦表示、9時位置:内側は秒針・外側は曜日表示。表示する要素は多いが、見やすい配置になっている。
月の満ち欠けの1周期は29.53059日とされており、機械式時計のアナログな歯車類の組み合わせだけで、この周期にいかに近づけるかというのは時計技術者にとってのひとつの課題でもあります。この高精度なムーンフェイズ機能だけでもIWCの高い技術力が伺い知れます。
↑ダブルムーン表示の接写。ふたつの丸窓の下にムーンディスクが見えており、表面仕上げの細かな部分まで見ごたえたっぷり。
機能性だけではなく、美観も高められました。まずケースは通常の18Kゴールドではなく、素材の硬度を高めた「18ct Armor Gold」というレッドゴールド系の素材が採用されています。これは含有する金属素材や製造工程を変化させることで、耐摩耗性を高めているもの。ゴールド系の素材は柔らかい金属なのですぐに傷ついてしまうものですが、少しでも傷が抑えられるのはユーザーにとっても喜ばしい進化です。
↑裏返すとIWCの自社製ムーブメント、キャリバー52616を鑑賞できる。ここまで機械が隙間なく詰まっているのは個人的に好みの要素。ゴールド製のローターが大きく揺れる様子は迫力満点だ。動力源と機会がンマイを収納した香箱を2つ備え、パワーリザーブはおよそ1週間。特にパーペチュアルカレンダーは止めたくないため、持続時間は長いほどありがたい。
デザイン面では、前作よりもベゼル部分を薄くすることでケースの厚みを感じさせなくなり、全体的に野暮ったさをなくすための工夫が見られます。分かりやすい変化は風防です。一般的なドーム型の風防から、大きく膨らんで丸みを帯びたボックス型風防へと改められました。薄いベゼルと相まって、斜めから見た時の視認性が向上したほか、よりエレガントな姿になったと感じます。
↑斜めから見ると大きく膨らんだボックス風防の効果が分かる。表面の立体感に加え、ゴールドケースと相まってエレガントな雰囲気が漂う。
それから文字盤の質感をより一層向上させた点も見どころです。本作は、中心から放射状に広がるサンレイ仕上げが施されたブラック文字盤ですが、実機を見ると他の時計よりも艶感と透明感が際立っているのが分かります。本作の文字盤はなんと60もの製造工程に分けて作られているのです。表面の透明感と奥行き感を生んでいるのは、透明なラッカー塗料を15回も塗り重ねていることが理由。ここまで塗料を厚塗りしているラッカー文字盤も多くないでしょう。
↑ポルトギーゼ パーペチュアルカレンダー44のリストショット。モデルは大分店の店長。ケースが大型ということもあり、遠目で見ても存在感は抜群。それでいて上品なのである。
↑ケースと同じ「18ct Armor Gold」製のバックル。大型のゴールドケースに相応しい重厚なつくりである。
と、ここまでじっくり見てきましたが、やはりその質感は実機でないと味わう事ができません。本作に少しでも興味を持たれた方は、実際に大分店に足を運んでいただくことをお勧めします。こちらの「ポルトギーゼ パーペチュアルカレンダー 44」を手に取って、重厚で荘厳な雰囲気を直接味わってみてください。
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最後までお読みいただきありがとうございました。それではまた!
●基本スペック
・型番:IW503702
・ムーブメント:自社製キャリバー52616
・ケース素材:18 ct Armor Gold®
・ケースサイズ:直径44.4mm、厚さ14.9mm
・防水性能:5気圧防水
・価格:725万4500円(税込み)