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【イベントレポート】グランドセイコーとクレドールの奥深い世界へ!クロノス日本版編集長 広田雅将氏 トークショー

グランドセイコー

小林時計店小倉店の時計技術者兼Web担当の土井です。※今回はちょっと長めです。

ここ1が月くらいの話なのですが、グランドセイコーの一部モデルがすぐには買えなくなってきているのをご存じでしょうか?具体的なモデルあげると代表作の自動巻きハイビート”白樺”や手巻きハイビートの”横白樺”、スプリングドライブの”白樺、”雪白”、”花筏”、”水面”など、文字盤に独自の特徴があるグランドセイコーらしい逸品たちです。

一般にグランドセイコーと言えば、ごく一部の限定モデルを除き”普通に買える”状態であることが普通。今も8~9割のラインナップは普通にその場で購入することはでき、ブティック前に行列を作る他所ほどではないにしろ、その兆候が少しずつ見えてきたような気がしてならないのです…。

実際に、先日ブログでご紹介したヘリテージコレクションのスプリングドライブモデル”花筏”に関しては、本ブログをアップした本日(2026年5月12日)の時点で順番待ち予約が3名様分もいただいており、しかも入荷時期は未定という状態。需要が供給を大きく上回っているこの現状が続けば、グランドセイコーでも予約必須のモデルが今後増えていくのではないか、と思うのは私だけでしょうか…?良くも悪くも、グランドセイコーが市場に与える影響は間違いなく大きくなっている、ということです。

さて、そんな注目度が高まり続けているグランドセイコーをテーマにしたトークショーが去る2026年5月9日に開催されましたので、今回はそのイベントレポートをお届けいたします。話者は時計好きなら誰もが知る”時計業界のご意見番”こと、高級時計雑誌「クロノス日本版」の編集長を務める広田雅将氏です。

↑広田雅将氏。大阪市出身の時計ジャーナリスト兼アートソルジャー。時計雑誌「クロノス日本版」・Web時計メディア「Webchronos」の編集長。サラリーマンなどを経て2016年より現職。GPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)のアカデミー会員を務める。

昨年10月に小林時計店天神店で行われた広田氏×Sinnトークショーのイベントレポートにも記載しましたが、私土井は2023年春ごろまで、3年弱クロノス日本版の編集部に勤めていました。東京にいた頃の広田氏とのご縁をここ北九州の地でも感じられるというのは、非常に有り難いことだと実感し、これからも大切にしていきたいと思っています。

イベントが行われたのは、グランドセイコーとクレドールの取り扱いのある魚町店。小倉本店から他店を挟んで3店舗目にある魚町店は、1階に国産のカシオとセイコー、GS、クレドール、2階にはボールウォッチやオリス、エベラール等があり、両フロアのブランド構成にギャップがある面白い、ある意味魔窟(?)かもしれない、という店舗です。トークショーはグランドセイコーとクレドールの什器に挟まれた1階フロア奥で行われました。

↑小倉の町で広田氏がトークショーを行うのは今回が初のこと。約40名のお客様にお越しいただき、トークショーはスタートしました。

ずばり、テーマはグランドセイコーとクレドールの何が凄いのか。歴史、デザイン、性能など視点を切り替えればいくらでも話せてしまうかもしれない内容ですが、今回は広田氏らしい”時計オタク”ならではの視点で細かなパーツひとつまで踏み込んだディープな世界を堪能できる、クロノス日本版ならではのマニアックなトークテーマとなりました。

全部の詳しい内容は割愛しますが、ここからは特に興味深かった内容を抜粋してご紹介いたします。まず上のスライドはグランドセイコーの外装に施されるザラツ研磨について。「グランドセイコーが世界で評価されている要素の一つが研磨技術です。ザラツ研磨は、プレスされたケースに面を与えて角を残す手法。ケースは分厚い板から強い力で抜かれるので材質として硬くなりますが、角が丸くなりやすいという弱点があります。それを解決したのがグランドセイコーの研磨技術です。

↑エボリューション9コレクションのデザインスケッチ。ラグ周りの複雑なデザインにご注目。

実際行うのは(道具こそ使いますが)基本フリーハンドなので、面の精度は腕次第で決まる部分。研磨技師さんのレベルが年々上がってきていることもあり、一昔前ではありえなかった細かなディテールを実現できるようになったのです。」確かに、エボリューション8コレクションのケースサイドやラグの先端部分の造形は、他と比べても段違いに複雑。要求される精度が高いため、ある種職人泣かせとも言えるほどですが、それだけ時計としての完成度は格段に上がっているということですね。

続いては文字盤についての話。グランドセイコーの文字盤は、他と少し違ったユニークな作りをしているといいます。「ここ数年のグランドセイコーは、文字盤での様々な表現を可能にしました。”白樺”や”花筏”などに代表される、型押し文字盤を作る技術が飛躍的に伸びています。」

↑文字盤の断面図を用いた、超マニアックな解説に入ります。

具体的には他と何が違うのか。「文字盤には、表面を保護するために表面に透明なクリアラッカーが吹かれるのですが、そのラッカーの厚みが段違い。(ここでは名前は伏せますが)名だたるスイスの高級時計ブランドの文字盤のおよそ10倍以上のトップコートを施しています。なぜここまで厚塗りをするかというと、紫外線が強かったり高温多湿だったり、世界中のさまざまな環境で使用しても劣化しないようにするためです。」

さらに、この厚塗りを活かしたのが近年の人気モデルたちに採用される型押し文字盤。「型押し文字盤の凹凸のある表面に極厚のクリアラッカーを吹いた後、表面を平滑に磨くことによって奥行きのあるニュアンスを表現しました。」厚塗りをするぶん乾燥させるのに時間がかかるため、ほかのブランドは積極的にやってこなかった工程を、グランドセイコーでは以前から当たり前のようにやってきたといいます。

「文字盤の厚みを深みに変えたのです。」

グランドセイコー「エボリューション9コレクション SLGH005」。現行のグランドセイコーで最も注目度が高いモデルの一つ。大変人気のため、小林時計店では現在(2026年5月現在)順番待ち予約を承っております。ステンレススティール製ケース(直径40mm、厚さ11.7mm、10気圧防水)。自動巻き(Cal.9SA5)、パワーリザーブ約80時間。127万6000円(税込み)。

特に興味深かったのはムーブメントの話。ここを深堀りしようとするとキリがなくなってしまうのでざっくりまとめると…”白樺”ハイビートに搭載されるムーブメント、Cal.9SA5については「設計思想を最新の世界基準に合わせた。部品を上に重ねていくのではなく、土台を大きくして部品を同じレイヤー上で散らすことで薄くした。」「ゼンマイのトルクロスを防ぎ高振動・高精度を実現するデュアルインパルス脱進機を採用した偉大さ。レーシングカーのエンジンを大衆車に載せ、それを量産しているようなもの。これは他ブランドにも影響を与えた。」

↑”白樺”に搭載されるCal.9SA5の解説。量産に全く向かないが、高い精度が出せるデュアルインパルスという仕組みを採用したグランドセイコー。本機の発表を行ったウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブのブースには、スイスの名だたるブランドの関係者たちが押し寄せたといいます。

加えてSLGW007”横白樺”に載る手巻きのCal.9SA4についても説明。「国産では数少ない手巻きムーブメントで、ベースは前述の自動巻きCal.9SA5。ただ自動巻きを外しただけではなく、全くの別物に仕上げてきている。もともと自動巻き機構があったスペースに、精密なパワーリザーブ機構を組み込んでいます。小さな歯車が集合しているのに動作に遊びがない。地味にすごいことをやっています。」

↑これまでにないほど巻き心地を追求して設計されたCal.9SA4。巻き上げの負担を減らすために手巻きの輪列を見直し、ベースのCal.9SA5から巻き上げ回数を約15パーセント削減しています。

そして本機の一番の魅力は巻き心地です。「セイコーの技術陣は、理想的な巻き心地を実現するために、さまざまなオールドムーブメントを触って、(具体例は避けますが)懐中時計の時代までさかのぼって研究を重ねました。”セキレイ”型のコハゼまわりの構造だけにとどまらず、リュウズのパッキンの厚みまで考慮して設計されています。結果、あのスムーズでありながら確かな感触のある巻き味になりました。」

グランドセイコー「エボリューション9コレクション SLGW007」。”横白樺”として知られる本作は、月明かりに照らされた白樺の樹皮を表現した文字盤を採用。こちらも大変人気が高いため、順番待ち予約を承っております。ステンレススティール製ケース(直径38.6mm、厚さ9.95mm、日常生活用防水)。手巻き(Cal.9SA4)、パワーリザーブ約80時間。134万2000円(税込み)。

続いて今回はクレドールについても熱く解説いただきました。グランドセイコーは実用時計、クレドールはドレスウォッチという立ち位置の違いもあり、展開される時計たちも設計思想も異なります。焦点を当てたモデルの一つがゴールドフェザー。なぜかって、オタク的に萌えるからですね。

クレドール「ゴールドフェザー U.T.D GCBY993」。「羽根のように薄く、軽やかで、空気をはらみ、艶やかで、優美」をコンセプトにするクレドールのドレスウォッチ。本作はアラビア数字のインデックスを採用する数少ないモデルです。ステンレススティール製ケース(直径37.1mm、厚さ8.0mm、日常生活用防水)。手巻き(Cal.6890)、パワーリザーブ約37時間。148万5000円(税込み)。

広田さんが大傑作だと評するゴールドフェザーが搭載するCal.6890は、現代では珍しく1960年代の古典的な設計をそのままの形でずっと作り続けている薄型手巻きムーブメント。厚みは1.98mmしかなく、製造・組み立てに高度な技術を必要とし、生産性は決して良くないといいます。

「この68系には様々なエピソードがあるのですが、特に印象的なのは”あまりにも薄いのでケースに入れて裏蓋を閉じただけで精度が全然変わってしまう”ということ。昔のモデルは極薄ケースだったので実用するうえで精度を出すのが難しかったそうです。対して現行品のケース厚は8.0mm。薄くしようと思えばもっと薄くできるのですが、普段使いを考慮して問題のない厚みに留めています。ゴールドフェザーは数少ない実用的なドレスウォッチだと言えるでしょう。」

↑クレドールに搭載されるCal.68系の解説パート。薄型ムーブメントならではの様々な工夫が見られます。

ではなぜ古典的かつ製造が大変なムーブメントを、設計を変えずに作り続けるのか。「その理由は職人の技術を今に継承するためです。薄型の機械は、極端な話をすれば組み立て途中に簡単にパーツが曲がったり、精度が変わってしまうもの。だから高い技術が必要。セイコーの長い歴史の中でも傑作である本機を作り続けることは、職人の技術を守ることでもあるのです。68系が現行機に載っているのは奇跡みたいなもの。だからこそ今のうちに買っておきましょう笑。」

…という感じで抜粋しましたが、これだけでも中々に濃い内容になってしまいました。1時間弱とは思えない情報量の多さや、ここでは(書きたいけど)書けない開発陣との裏話など、充実のトークショーとなりました。

またイベント当日は私土井のSNS(Xなど)のフォロワー様ともお会いでき、非常に楽しい時間を過ごすことができました。ハイライトを飾ったのは、ご遠方から来ていただいたお客様が当日に”花筏”を納品されたこと!記念写真を撮影させていただきました。

「グランドセイコー ヘリテージコレクション SBGA443 ”花筏”」軽量なブライトチタン製の外装を持つスプリングドライブ搭載機で、控えめな桜色の文字盤が腕元に華を添えます。ブライトチタン製ケース(直径40mm、厚さ12.8mm、10気圧防水)。自動巻き(Cal.9R65)、パワーリザーブ約72時間。94万6000円(税込み)。順番待ち予約受付中。

結構長めになってしまいましたが、以上を今回のイベントレポートとさせていただきます。改めまして、トークショーにご来場いただいた多くのお客様、並びにグランドセイコーとクレドールの魅力を余すところなく語っていただいた広田氏に大変感謝申し上げます。広田氏とのご縁を大切にし、これからももっと楽しんでいただけるイベントを実施していきたいと思っております!

最後まで読んでいただきありがとうございました。それではまた!

……………..

【おまけ】

↑イベント終了後は鶏皮の串が美味い居酒屋へ。圧倒的に!時間が!足りない!!

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